現在、歯科診療で最も使われている印象材(型取り材)は、アルジネート印象材です。この成分のアルギン酸ナトリウムは、海藻に含まれる多糖類の一種です。
この印象材は第二次世界大戦後に普及しましたが、以前まで「寒天」が使用されていました。寒天は精密な型を取ることができ、世界中で日本の寒天が使用され、日本の輸出品となっていました。
しかし第二次世界大戦の影響でアメリカへの寒天の輸出が途絶えたため、アメリカは、アメリカ沿岸の海藻を調査し、代替材料としてアルギン酸を使用したアルジネート印象材を開発しました。
操作が簡単でコストパフォーマンスが高いため、現在世界中で広く使用されています。しかし寒天に比べて精度が落ちるため、寒天と組み合わせて精度を上げる工夫もされています。
同じアルギン酸で固まるものとして「かまぼこ」があります。日本人は昔から、沿岸の海藻や海産物を上手に利用していたのですね。
もうすぐお正月です。かまぼこを食べる機会もあると思います。そんな時、歯科治療で歯の型を取る印象材の成分が、食品に使われるくらい安全なものであることを少し思い出してください。
アルジネート印象材は依然として主流ですが、最近では情報通信技術(ICT)の発展により、口の中をスキャンして得られたデジタルデータにより型を取る方法も登場しました。
口の中に小さなカメラを入れて口内を撮影し、このデータを使用して詰め物などを製作する技術です。これはますます発展していくものと予想されます。
(鹿児島県歯科医師会 理事 要光)
食品にも使われる成分 歯の型取り材