歯の主成分はカルシウムなので、強い酸に浸すと溶けてしまいます。むし歯は原因菌が酸を作り出して歯を溶かす病気ですが、むし歯ではないのに口の中で歯が溶けることがあります。これを酸蝕症と言います。
歯の冠部分はエナメル質という硬いアパタイト(リン酸カルシウムの一種)に覆われていますが、口の中が酸性に傾きペーハー(pH)が5.5以下になると溶け始め、酸蝕症を発症します。
原因は大きく三つあります。一つ目は、偏った嗜好による食習慣です。酸性の飲食物と言えば、炭酸飲料やレモンなどのかんきつ類、赤ワインや炭酸を含むアルコール飲料などが含まれます。酸っぱいものを好み、酸性飲料を口に含む時間が長くなると、唾液が本来持っている酸を中和する作用が追い付かず、歯の補修作用である再石灰化も起こらず歯が溶けていくのです。
二つ目に、塩酸や硫酸などの強酸を扱う仕事が原因になって発症する可能性があります。近年、このような事業所や工場には特殊歯科健診とその結果報告が義務化されています。
三つ目は体内の酸、特に胃酸の逆流によるものです。過度なダイエットや自律神経失調症などによる嘔吐や逆流性食道炎なども胃酸が口腔内にとどまる原因となりえます。
酸蝕症かどうか気になる場合はまず、歯科医の診断を受けましょう。歯質の形成不全症や、むし歯の鑑別診断が必要となります。そして酸蝕症であれば、それぞれの原因を改善することが大切です。食習慣や仕事環境を見直し、嘔吐しないよう体調を整えましょう。治療については、かかりつけの歯科医に相談してください。
(鹿児島県歯科医師会 情報・対外PR委員 鬼塚一徳)
酸の取り過ぎに注意を 酸蝕症